Soa : 原初の外界人

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――……参った。ここは一体どこなんだ? 私はついさっきまで、大学にて機械工学の講義を受けていたはずだ。で、帰りの電車に乗っての一眠りを決めた矢先、ふと気付いたら山道の小岩の上に腰掛けていたのだ。 最初は座席に見た明晰夢の中かと思った。頬をつねり、寝呆けた頭を正気に戻そうとした。あるいは頭頂を骨張った拳で殴り、文字通り叩き起こそうともした。だが無駄だったのだ。痛みが溜まる一方で、肝心の目の前の世界はというと、微塵も変わろうという素振りを見せようとしなかったのだから。 ――……まさか、な。 私は、平行世界論を信じている。この世は違う歴史を辿った無数の世界から成り立っているのだ、と。異なる思考体系の感知する世界は他と完全一致する事がない――言うなれば、自分と他人の見る世界は違う、という理屈だ――などという考えをだ。 だが、それを考えても腑に落ちない。平行世界間を直接渡るなど、いまの人類に出来るはずなどない。ますます分からなくなってきた。 ――……待て、落ち着け。取り敢えず落ち着け。話にならん。 言い聞かせ続ける。が、なかなか落ち着けない。人間がそこまで単純ならば楽な話ではないか。現実は葛根湯程も甘くはない。 それでも、周りの様子だけは何とか察する事が出来た。 この山は赤土だ。そして周りは桜や楓のような広葉樹林が広がる。独特の湿った風に、土の香が広がる。 ――もしや、時間だけ動いたのか? しかし、そう結論づけるには些か面倒な点がある。時々足元に多くの石が転がっているが、妙な事に青や緑に澄んだ宝石のような輝きを見せてくる。私の知る限り、そんな土地は日本にあるはずもないのだ。 それに、今更気付いたが、空の色がこれまた妙だ。青緑だ。地球よりも緑加減が強い。言ってみれば、沖縄の離島の海に似た色。空の色という認識にはなかなか合わないのだ。 ――……畜生、えぇ儘よ。 もうこうなったら仕方がない。事実を幾ら否定しようが、願望が実になる訳でもない。諦めも肝心だ。 そう、私こと柳川義則は、この時既に地球とは似て非なる環境を持つ世界にいたのだった。
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