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浮いた話のひとつもない、真面目で地味な女の子。
というのが藤崎香澄に関する三年A組共通の認識だったので。
化粧を教えて欲しいと頼まれて目を丸くしたのは、私だけではなかった。
「化粧、教えて欲しいんですけど」
黙ったままの私たちに、香澄はもう一度繰り返した。
「お母さんに教えてもらえば?」
いち早く我に返った佳代子が言い、私たちは一斉に吹き出した。
一拍遅れて香澄も笑った。
どこか媚びを含んだ笑いだったので、一気に白けた空気が漂った。
佳代子の頭の中には、クラスメイトのヒエラルキーを示す明確なピラミッドがある。
相手の位置しだいで態度が大きく異なるため、クラスメイトにはあまり好かれていない。
しかし佳代子自身は、無駄に声が大きいというだけの理由で自らをA組のムードメーカーと言ってはばからない。
佳代子の冷ややかな眼差しに、私は香澄がピラミッドの最下層にいることを知った。
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