3487人が本棚に入れています
本棚に追加
/782ページ
「他に、近藤局長からなにか聞いたか?」
「なにをだ?」
「……いや、なんでもない」
「そうか、ならばいい」
「無理矢理訊かないのか?」
「話したくなければそれでいい。貴様であることに変わりはないからな」
「───あんた、変だね」
「貴様ほどではない」
口元を愉快そうに上げて芹沢は言った。
それがジョークとすぐに解り、私はつい笑ってしまった。
目の前の彼も、温かい笑みを溢していた。
すると、どたどたと騒々しい足音が響いた。
それはだんだんと近づいてきて、どこかで止まったのだろう、ピタリと足音が止んだ。
そして、芹沢の部屋の襖が勢いよく開いた。
「芹沢先生!あの店はもう駄目です。この私に楯突いてきて───」
襖を荒々しく開けて入ってきた人物は、興奮した様子で芹沢に捲し立てた。
しかし、私の姿を認めると目を見開き、さらに怒りのボルテージを上げたようで、顔を真っ赤にした。
私はというと、大変失礼ながら、嫌な顔つきをしていたことだろう。
いや、憎々しげに見ていた、の間違いかもしれない。
「貴様がなぜここに!!芹沢先生のお邪魔だ、今すぐ出ていけ」
「言われなくても、出ていくよ」
先ほどの気分から一転、むかむかする気持ちが心を占め、私は一刻も早くここから立ち去ろうと腰を上げた。
部屋に許可なく入ってきた男──平山と睨み合うように横を通り過ぎ、襖のところまできた。
振り返らず、なにも言わずに出ていこうと思っていたが、彼の放った一言に、どうしても言い返したくなった。
「挨拶もなしに退室とは、礼儀のない奴だ」
「家主の許可なしに部屋に入ってきたあんたは、どうなんだよ」
背後で平山が喚いていたが、私はそのまま部屋を出た。
足音は極力立てず、静かに八木邸を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!