13-(2).

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「ねえ、オレのどこを気に入ったんだ?」 「……わしらと同じ匂いがするから……だろうな」 あの時もそう答えていたな、と思い出し、それがなにを意味するのかが解らなかった。 においと言われてひとまず自分の臭いを嗅いでみたが、同じ臭いだとは思わない。 いや、むしろ同じ臭いでいてほしくはない。 私はまだ十九歳で、一応、女だ。 二の腕部分の着物を嗅いでいれば、芹沢は目を点にしてこちらを見ていた。 そして突然笑い出すと、「貴様はおもしろい奴だな」と言ってきた。 こっちは真剣に同じ臭いがしないか確認していたのに、なんだというのか。 「匂いとは言ったが、本当に匂うわけではない」 「じゃあ、どういう意味だよ」 「そうだな…………わしら──特にわしと貴様は似ているということだ。育ちも考えも境遇も」 「オレのこと知らないのに、なんでそう言い切れる?」 「勘……と言ってしまえばそれで終いだが、強いて言うなら、貴様の目だ。色を指しているわけじゃないぞ、瞳に宿るモノを指している」 「?ますます解らない」 「解らずともよい。いずれ解る時が来るだろう」 「いや、解りたくないし。むしろ、あんたと同じってところで嫌だ」 心の中で言ったつもりが、つい口をついて出た。 今までそれなりに大人しかった私が、突然そのような暴言を吐いて、芹沢は再び目を点にした。 しかし、また豪快に笑い出すと、私の頭に手を乗せて、わしゃわしゃと撫でてきた。 一瞬、酔っ払いの行動か?と思い、彼を見上げたが、そういう風には見えなかった。 本当に雷光のように、父というものを感じた。 「そうだな、わしと同じは嫌だろうな。わしも、同じになってほしくはない」 そう言った芹沢の瞳はとても寂しそうだった。 彼のイメージには似つかわしくないその表情に、どきりとした。 憎たらしい平山のいる芹沢派のリーダーで、その横暴ぶりは平山以上。 とにかく大嫌いでムカつくはずなのに……今の彼からはどうしてもそう思うことができなかった。 芹沢は手を離し、再び酒を呷り始めた。 しかし、私の存在を無視しているようには感じなかった。 むしろ、そこにあって当然、といった空気。 それが少し心地よくて、出て行こうと思っていた気持ちはすっかり失せていた。 湿気をはらんだ風が部屋に入り込み、銀の髪を靡かせた。
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