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「ねえ、オレのどこを気に入ったんだ?」
「……わしらと同じ匂いがするから……だろうな」
あの時もそう答えていたな、と思い出し、それがなにを意味するのかが解らなかった。
においと言われてひとまず自分の臭いを嗅いでみたが、同じ臭いだとは思わない。
いや、むしろ同じ臭いでいてほしくはない。
私はまだ十九歳で、一応、女だ。
二の腕部分の着物を嗅いでいれば、芹沢は目を点にしてこちらを見ていた。
そして突然笑い出すと、「貴様はおもしろい奴だな」と言ってきた。
こっちは真剣に同じ臭いがしないか確認していたのに、なんだというのか。
「匂いとは言ったが、本当に匂うわけではない」
「じゃあ、どういう意味だよ」
「そうだな…………わしら──特にわしと貴様は似ているということだ。育ちも考えも境遇も」
「オレのこと知らないのに、なんでそう言い切れる?」
「勘……と言ってしまえばそれで終いだが、強いて言うなら、貴様の目だ。色を指しているわけじゃないぞ、瞳に宿るモノを指している」
「?ますます解らない」
「解らずともよい。いずれ解る時が来るだろう」
「いや、解りたくないし。むしろ、あんたと同じってところで嫌だ」
心の中で言ったつもりが、つい口をついて出た。
今までそれなりに大人しかった私が、突然そのような暴言を吐いて、芹沢は再び目を点にした。
しかし、また豪快に笑い出すと、私の頭に手を乗せて、わしゃわしゃと撫でてきた。
一瞬、酔っ払いの行動か?と思い、彼を見上げたが、そういう風には見えなかった。
本当に雷光のように、父というものを感じた。
「そうだな、わしと同じは嫌だろうな。わしも、同じになってほしくはない」
そう言った芹沢の瞳はとても寂しそうだった。
彼のイメージには似つかわしくないその表情に、どきりとした。
憎たらしい平山のいる芹沢派のリーダーで、その横暴ぶりは平山以上。
とにかく大嫌いでムカつくはずなのに……今の彼からはどうしてもそう思うことができなかった。
芹沢は手を離し、再び酒を呷り始めた。
しかし、私の存在を無視しているようには感じなかった。
むしろ、そこにあって当然、といった空気。
それが少し心地よくて、出て行こうと思っていた気持ちはすっかり失せていた。
湿気をはらんだ風が部屋に入り込み、銀の髪を靡かせた。
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