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昔から人付き合いが苦手だった。
小学校でも中学校でも高校でも、友人は多くなかった。
だから一ヶ月前、「成人式のあと六年四組のみんなで温泉に行こう」と電話がかかってきたときは、かける相手を間違えているのではないかと疑ってしまった。
「体育祭でもクラスマッチでも引っ張りだこだったくせに、嫌味な奴だな。吉峰を誘えって、女子がうるさかったんだぜ」
海沿いを走る快速列車の中、向かいに座るインテリ眼鏡は心配し過ぎだと言って笑った。
その言葉を聞くために、俺は身を乗り出さなければならなかった。
賑やかなのはいいけれど、盛り上がるにもほどがある。
他の乗客たちが逃げるように別の車両へ異動してしまったため、一号車はほぼ貸し切り状態と化していた。
酒も入らないうちからよくぞここまではしゃげるものだと、妙なところで感心してしまう。
一度車掌が注意しに来たが、無駄だと悟ったのだろう。
状況を一目見るなり、首を振りながら戻っていってしまった。
俺は携帯を広げ、繰り返し読んだメールをもう一度読み返す。
『仕事終わたら行く。ホテル着くのたぶん八時ごろ』
「わ」と「た」の間にあるべき、小さな「つ」が見当たらない。
紺野のメールはいつも何かが抜けている。
「宴会に間に合えばいいけど。あいついたら絶対盛り上がるっしょ」
俺の心を見透かしたようなタイミングで、長谷部が言う。
「そうだな」
頷いて携帯をたたむと、長谷部は大仰に溜息をついた。
「ずいぶん素っ気ねえのな」
軽く睨むと、長谷部は悪びれた風もなく肩をすくめた。
いつまでもにやにや笑っているので、到着までずっと窓の外を見てやり過ごした。
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