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香織が口を開いた
「…前に車停めて待ってる」
もう駄目だ。紙一重で留まれるかも知れない均衡が破れた
「わかった…店閉めるから、下で待ってて」
私の顔も見ないまま、香織が出てゆく
もう、後戻りはできないだろう
簡単な片付けを終えて、店の鍵を閉めた
古びたエレベーターのボタンを押して下に向かう。気が変わって彼女が帰っていてくれればとも考える
『地獄だよ…』
わからない、愛情の欠片もなく、それでも今何かを求めて引き合ってしまう
目の前に、赤いBMWが止まっていた。真っ直ぐに前を見たままで、香織がハンドルを握っている
ドアを開けて車に乗り込んだ
「どこに行けばいい?」
「どこでも良いよ任せる」
殆ど無言のまま、車は走り続けた
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