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北朝鮮での仕事を終えて、空港のロビーで搭乗を待つ星野剛士(ホシノツヨシ)。
剛士の仕事は政府の機密機関、特殊工作員である。
その仕事の存在を知る者は、政府機密機関の数名と同僚の七名のみ。
決して、明かしてはならない、明かしたら最後、この世から抹消されてしまう。
反面、普通に暮らす義務も与えられていた。
が、それは単にカモフラージュの為である。
剛士の旧名、加納賢治は特殊工作員配属と共に戸籍を抹消されていた。
死亡扱いされている訳でもない、加納賢治自体がこの世には存在しないのだ。
云わば、今の星野剛士は幽霊と同じである。
剛士の妻、亜希子(アキコ)もその事は知らない。
剛士の仕事は民間の商社マンになっていて、その商社自体もダミーで開設している。
搭乗を知らせるアナウンスが流れる。
剛士は広げた雑誌を丸めて、支度を始めた。
ロビーのガラスから見える外は雪がチラついていた。
勿論この時はまだ、関西が地獄に突き落とされるなど知る由もなかった。
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