第二章「聖嶺魔法学園」

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 ──冬也がひとり開き直っている頃。  学園長室を後にした龍也と志乃は、暫く無言のまま横並びで廊下を歩いていた。  不意に、志乃が口を開く。 「そういえば黒宮君。学園長と親しい様子だったけど、知り合いなの?」 「ああ、ソレは……。  俺の上司? 知り合い? ……まあどっちでもイイか。とにかく、俺と親しい人と学園長が友人みたいで、遠慮も敬語もいらないとさ」  志乃の質問に、龍也は顎に手を当て首を捻りながらそう答える。その言葉に、志乃は納得した様子で頷いた。 「そういうことね……どうやら、黒宮君って敬語が苦手みたいね」 「ソレもあるんだけど……ってあれ、分かるの?」 「ええ。だって、私にも砕けた口調のままだもの」 「あー……スイマセン、先生」  「やってしまった」と、素直に頭を下げる龍也に、志乃はクスッと笑みを零した。 「私は別に気にしないわよ。それと他の皆にも言ってるんだけど、名字で呼ばれるのは余り好きじゃないから、気軽に「志乃先生」って名前で呼んでね。  ……けど、他の先生方と話す時は気をつけるのよ」 「りょーかい、志乃先生」  この時「他の教師(ヤツ)は力で黙らせようかな……」などと、危険なことを考える龍也だった。  ──龍也と志乃がそんな会話をしている頃、朱雀はというと……。 「なぁなぁ朱雀! 高等部入学とはまた別の転入生が来るって、ホントかよ!?」 「ああ。俺の友だちだぜ」  朱雀は、教室で友人であろう男子生徒と話していた。  その男子生徒は短めの茶髪のくせっ毛で、目は少し暗い橙色。身長は龍也よりも少し低い程度で中々整った顔立ちであり、その明るい笑顔はどこか大型犬のような人懐っこさを感じさせる。  男子生徒は、朱雀の言葉に目を輝かせて身を乗り出した。それを避けるように、朱雀は微妙に顔をしかめて少し身を引く。 「マジかよ! どんなやつ? 強いの? 強かったら戦いてぇ~!」 「ああ強いぞ……強いから(りょう)、お前はちょっと落ち着け。鼻息が荒い」  男子生徒──遼は、朱雀の言葉など気にせず嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。  ──控え目に言って、目障りだ。朱雀は心中でそう呟きながら眉を寄せる。 「朱雀が言うんだからメッチャ強いんだろうな~! いやー、楽しm「……いい加減黙れ」ゴハァッ!」  イラつきが限界に達した朱雀は、目の前で飛び跳ねる遼の鳩尾(みぞおち)に容赦なく拳を突き刺した──その衝撃に遼は奇声を上げ、鳩尾を押さえその場に倒れ込む。  朱雀は拳を引くとフゥと一息つき、清々しい表情で口を開いた。 「よし、うるさくなくなったな」 「ちょ……朱、雀……手加、減……し、ろ……」  足元で遼がなにか呻いているが、朱雀は当然の如く無視した。    ──その頃。  龍也と志乃は「1-A」と書かれたプレートが下がっている教室の扉の前に立っていた。  扉に手をかけたところで一旦立ち止まり、志乃は龍也の方を向いて口を開く。 「ここが私たちのクラスよ。これから黒宮君を皆に紹介するんだけど……挨拶とか自己紹介とか、なにか考えてる?」 「あ、もう着いたのか。自己紹介ねえ……なに言おうかな……」  口元に手を当て、難しそうな表情で考え込む龍也に、志乃は「そうね……」と口を開く。 「名前は当然として……ここは魔法学園だし、使える魔法の属性とか、後はギルドに登録してるでしょうから、そのランクとか良いんじゃないかしら?  まぁ、黒宮君の言いたいことを言えばいいわよ。もちろん常識的な範囲でだけどね」 「ナルホド……それならイイ感じに済ませれそうだな。アドバイスありがと、志乃先生」 「ふふっ、どういたしまして。  ……それじゃあ私は先に行くから。呼んだら入ってきてね」 「へいへい、待ってマス」  扉を開け教室に入って行く志乃の背中を見届けながら、龍也は「ランク……魔力を封印してる今の俺なら……ちょっと高いけどAくらいかなあ」と、ひとり呟いた。  ──教室内。 「みんな、席について」  志乃が教室に姿を見せたことにより、席を離れて雑談していた生徒たちはあらかじめ割り振られていた自身の席に戻る。  ──朱雀の足元に転がっている遼を除いて。 「全員揃っ……あれ? (たちばな)君は?」 「ここに転がってますよ。先生」  頭に疑問符を浮かべ教室を見渡す志乃に、朱雀はしれっとした様子で軽く手を上げそう言った。  その言葉に志乃は一瞬ポカンとし、目を瞬かせながら口を開く。 「えっと……一応、理由を聞くわ。なぜ?」 「いやぁ……うるさかったんで。つい黙らせてしまいまして」  悪びれることなくサラッとそう言う朱雀に、志乃は眉間を押さえて「うーん……」と唸る。 「……と、とりあえず。このままじゃホームルームが進まないから、起こしてくれる?」  志乃の言葉に、朱雀は「はいはい」と軽く返事をしながら足元に転がっている遼の身体を爪先で2度蹴った。 「ほら、遼。さっさと席つけ。ホームルーム始まってんぞ」 「…………」 「さん、にぃ、いち……」 「起きた! 起きたから朱雀! 今すぐ席に戻るからぁ!!」  朱雀がカウントダウンし始めた瞬間、遼はそう叫ぶと元気良く (?) 立ち上がって席に戻る。  周囲のクラスメートから冷ややかな視線を送られるが、遼は気にしていない──というよりも、気付いていない様子だ。  遼が席に着いたことで志乃は咳払いをひとつ、改めて口を開いた。 「……さて。皆さん、おはようございます。  私はこの1―Aの担任となりました、西条 志乃です。担当科目は魔法科学で、たまに戦闘学も担当しています……まあ、中等部上がりの人たちは一緒に授業していたし、既に知っている子もいるかな?」  そんな志乃の言葉に、所々から「知ってますよー」や「志乃先生久し振りー」などといった声が上がる。どうやら、志乃は生徒たちに好意的な印象を持たれているようだ。  志乃はそれに対し笑顔で「はい、久し振りね」と返して、改めて「さて……」と言葉を切り出す。 「皆さんは今日から高等部に進学しました。  中等部から見知った顔もいれば、高等部入学でまだ慣れてない人もいるでしょうが……実は、もう1人新しい仲間(クラスメート)がいます。  今から、その子を紹介しようと思います」  
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