幻妖獣

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 古城の奥底に獣はいる。  流星のごとく青白く輝いた髭を垂らし、十字が刻まれた灼熱の赤き瞳は顔の然るべき場所にはなく、ただうっすらと浮き出て見える。銀色の頭には宝石を惜しみなくちりばめた王冠があった。隆起した背中の肉から無数の骨が突き出ている、それはぬらぬら濡れていて、鎖や剣や斧や紅玉などが突き刺さっていたり巻き付けられていたりしている。  胸元はぽっかりと穴があいていて、極めて不思議なことに臓器なるものは一切見えず、血の流れている様子も見当たらない、吸い込まれるほどどす黒く、未知の世界へ通じているようであった。  腹より下は蝋を溶かして固めたような鼠色の布で覆われている。胸元の穴の中が突如、星のごとき輝きを発すると、泉の湧き上がる音がした。口のあるべき場所が裂けて、黒く長い舌が伸びると、どこの国にも存在しない言葉を──圧倒的な害意と悪意の込められた呪いの数々をとめどなく吐き出した。
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