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朔の強い希望で芙蓉は朔の仕事に同行する機会が目に見えて増えた。
共有する時間が増えるのと同時に晒される好奇やら憎悪やらの嬉しくない視線。
男の職場にしゃしゃり出るなぞいくら朔様の婚約者とは言えまだ結婚もしていない内からいい気になるなと面と向かって小言を言う幹部もいた。
ああ尤もだと落ち込むも朔が然り気無く、僕が我儘言って連れ回しているんですなんて庇ってくれるからほっとする反面辛くて堪らなかった。
早くそんなことに流せるように慣れなければならない。
芙蓉は自分に言い聞かせ続ける。
朔の傍にいると言うことは常に人から評価され続けるのだからそれに慣れるより他ない。
だけども目立つことにはなかなか慣れない。
ふぅ……
傍らの朔が心配しないように深呼吸を繰り返し、笑顔で見知らぬ人と握手を交わす。
うっかりトラウマがもたげてきて震えそうになるのをこらえるのに神経をすり減らしながら。
とにかく必死だった。
着慣れない上質のスーツに身を包み、慣れない高いヒールの靴を履いて必死に背伸びする。
朔に相応しいと少しでも認めてもらいたいと願って。
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