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元の位置よりもかなり近い至近距離から見下ろし、俯く椎名の顔を横から覗き込む。
「そんな、言えないようなことが書いてあったの」
「……いえ、そういうわけでは、あの……」
「なに?」
俺が体を少し乗り出すたびに、椎名の身体が小さく縮んでいく。
「あの、せんせ、……」
言葉を待たずにゆっくりと手を伸ばすと、椎名がぴくりと肩を揺らした。
何かの予感を帯びたように、しっとりとうるんだ黒い瞳を見つめながら、そっと椎名のジャージに手をかけ、――ポケットからするりと白いカードを抜き出す。
「――あっ……だ、だめ……っ」
慌ててこちらに伸ばされた手をヒョイと避け、勝ち誇った顔でカードを裏返すと、
「……」
そこに書かれた文字を読んでから、――俺は椎名の顔を見て、口角をぐっと斜めに引き上げた。
「へえ。お前、……俺のこと、そんな風に思ってたの」
「……」
「もしかしてお母さんにも話してるのかな、このこと」
俯き、自分のジャージの裾をいじいじしながら、ちら、と俺の顔を窺い、慌てて目を伏せる。
「……そ。なるほどね。お前の気持ちはよく分かった」
紙に書かれた文字をぴら、と椎名に向け、にっこり笑う。
椎名は、えへ、とバツが悪そうに愛想笑いを浮かべた。
白いカードには、誰が書いたのか、とても適当で下手くそな字で、
『真正ドSオトコ』
と書かれていた。
「……だから見ちゃダメって……言ったのに……」
極限まで小さくなった椎名が、蚊の鳴くような声でぽつりと呟いた。
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