最終章

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「最後の応援合戦、始まったみたいだね。今から戻れば間に合いそうだな」 「……」 返事が返ってこないので顔を向けると、椎名はじっと俺の顔を見ていた。 「どうしたの」 「……先生」 「ん?」 「さっきの、あれ……」 「……アレ?」 「うちの母が言ってたっていう、あれ……」 「……ああ、アレね」 俺は鼻の頭を掻いて、 「実は、……ほんとは何も聞いてない」 「え」 「冗談で言っただけだよ。別に俺の話なんて出てないし」 「……」 椎名は気が抜けたように脱力した。 「なんだ……そっか……」 ほっと胸をなでおろす様子に、むずむず、と俺の意地悪ゴコロが顔を出す。 「それで?」 「え?」 「結局、何て言ってんの。俺のこと」 「……」 「言ってみ」 「……で、でも……」 「……」 ――この絶妙なもじもじ具合が、どうにも俺の残虐性をくすぐるというか……。 「じゃあ、……もうひとつ質問」 「……?」 俺はニッと笑って、 「結局、何だったの。お前が引いた、借り物競走のお題」 「……えっ?」 椎名の声が裏返る。 「え、……えと、ですね」 ぐっとあごを上げ、天井を見上げながら首を傾げて、 「あれ?な、何だったかな」 「…………」 「確か、……学校の先生、とか、そういう……」 ごにょごにょ言いながら、じり、じり、と丸椅子ごと後ずさりしていく様子をしばらく眺めてから、俺はスッと足を伸ばし、椅子のキャスター部分につま先をひっかけてこちらにキュルキュルと引き寄せた。
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