辺境遠征(後編)

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 東部基地のテサでは、遠征中にエタハ村で起きた野生竜の襲撃事件への対応に追われていた。  現場に居合わせたワルトとテレーは上官から事件の経緯を説明するよう指示を受け、参謀室の黒板の前に立っていた。  部屋には参謀や少将、大佐などの面々が二人に向かい合う形で席に着いている。 「結局エタハ村では、クルト二等兵の消息はつかめなかったのだな?」  テレーから見て右側の位置に座っていた白髪まじりの参謀が、ワルトとテレーから提出された報告書を片手に眼鏡をキチリと鼻の上に押し上げる。 「はい。クルト二等兵の実家を訪ねてみましたが、帰ったような様子はありませんでした」  ワルトは淡々と訪問の様子を説明していった。  辺境遠征でワルトとテレーの二人に課されていた任務は、ここ数ヶ月の間に頻発している若者の失踪事件の捜査である。  単なる失踪事件ならば地元の警隊が対処するところだが、ある特殊な事情により竜騎士が動員されることになった。  その特殊な事情とは、一連の失踪事件には共通して竜の影がちらついているということだった。  例えば、失踪者が姿を消す直前には周辺に竜が現れたという記録が何かしら残っている。  加えて、失踪者の捜索に当たった者が必ずと言っていいほど竜に襲われていた。  警隊はこの捜索でこれまで多くの隊員を失っており、繰り返される竜の襲撃についに悲鳴をあげた。  そこで、竜の知識が深く、かつ竜との戦いに慣れている竜騎士に出動を要請したというわけである。
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