自分と自分の

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 ナオも背を振り返り、その少女の姿を見た。 「貴女が一目連ですか? 真田の陰陽師に封じられた神族。何故貴女がここに来ているのですか?」  余裕は変わらず。そんなナオに一目連もまた平然と口を開く。 「銀髪……お前が七尾か? ……ならば言うまでもなかろう。お前を討つためだ」 「何を仰いますか? いつから一目連は白面金毛九尾を庇い、人間側に付いたのですか?」 「愚問だな。私は白面金毛九尾に付いた覚えはない」 「ならば何故ですか?」  ここで、再び微笑を浮かべて。 「咲阿雲母に借りがあり、大層のお気に入りだ。それだけで――不服か?」  語尾と同時に右の手を真横に振り抜く。すると、風が何処からともなく吹き荒れ、誠吾の周りを囲い始める。真空の壁と言うべきか。風が小さく音を残し、誠吾を守っているのだ。 「さて、うだうだと喋っていても仕方ないだろう? 七尾……私が相手してやろう!」  腰帯にある小太刀を静かに抜くと、西日を弾く銀光の刃。右の手を構えると即座に左の手を背中帯に隠す金槌を取り出し――金属を打ち付け、音を響かせる。  合わせ目映い光に包まれる小太刀は、瞬時に太刀へと姿を変える。同時に金槌を背中に戻すや、その小柄な身体を空中にフワッと浮かせ。 「――黄泉に私が送ってやろう!!」  風を一身に浴びて、黒髪を水平に靡かせながら、一直線にナオに飛び出す一目連。  そうはさせまいと、赤色の修験装束以外の妖魔が同時に一目連に襲い掛かるが…… 「力を封じられた私ではないッッ!」   藍色の片目を細めながら、右に握る太刀に妖気を籠めて――横に振り抜く。  銀の刃が闇夜の空気を切り裂けば、けたたましい音が生じた。風が瞬きをする間も無く螺旋に流れ、形を成して行く。  一本の風は周りの空気を吸い込みながら巨大な竜巻となり、全てを呑み込まんとする。 「――吹き飛べッッ!」  一目連の叫びに合わせ、飛び掛かる妖魔は呆気ない程に吸い込まれると、猛烈な風撃の中で動きを封じられなが……真空の刃にその身を切り刻まれて行く。  遂に何体も居た妖怪は、一目連が放つ竜巻に呑まれて粉砕されると無に返り、残ったのは赤い修験装束の妖狐五体と、ナオだけとなる。
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