クルミと砂糖と干し葡萄

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時々ちらりと、お兄ちゃんの姿を求める。 あまり離れたくなかったから、比較的海岸に近いところで揺られていたけれど、こう人が多いと、海というよりプールのようでもあり。 浅い箇所は、水もぬるくて。 テレビで見た、温泉に浸かるニホンザルを思わせた。 ひとりは、つまらない。 やっぱりお兄ちゃんの傍に戻ろう、と。 そう思って体の向きを変えた、その目の前に、見たことのない男が、私の浮き輪に手を掛けていた。 「どうしてひとりなの?」 「……………」 だれ? ナンパ? 「あれ?外人だった?日本語わかんねぇ?」 「……ひとりじゃないから」 「なんだ、日本語わかるんじゃん。ひとりじゃないとか嘘ばっかり」 ずっと、ひとりだったじゃん、と。 痛んだ茶色い髪を濡らした、その男は。 一緒に遊ぼうよ、と、私の浮き輪を引っ張った。
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