プロローグ

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今井の声が聞こえてくるが、隼人は教科書に一瞥も投げず、窓の外をじっと眺めていた。 その向こうにはどこまでも続く新緑の山々と、視界いっぱいに広がる田畑が見える。その大自然に交じって、人工的な建物が建っている。生徒たちの家やコンビニである。この魚山村には、田舎としては珍しく大手コンビニエンスストアのファミマートが出店しているのである。それほど需要があるようには思えないが。社長は何を考えているのだろう。さっぱり分からない。視線を右にやると、一際大きい建物が見える。美色農業協同組合魚山支社だ。魚山村の隣には美色町という大きな町がある。ここら一帯の農協は全て美色町が管轄している。魚山村に支社がある理由は、農業がさかんで、特にキャベツが有名であり、都内にも出荷されている点にある。魚山村の収入のほとんどはキャベツなのである。 隼人は、そんな大自然に囲まれた魚山村の中心を通る魚山川を眺めていた。また、例の4人と遊ぶ計画を立てているのだろう。その4人とは、小林琢弥、生原賢介、安藤昴、有村俊太のことだ。4人とも魚山中学校2年3組の生徒で、昔からよく一緒に遊んでいる幼なじみである。もちろん喧嘩もすることはあるが、仲直りの速さはどこの幼なじみグループにも負けないほどの速さだ。隼人を含めた5人は主に、魚釣り、虫捕り、不法侵入をして遊んでいた。不法侵入といっても家の中に入るわけではなく、私有地の中に入るような子供のするようなものであった。都会でやったら警察沙汰だが、魚山村ではもう当たり前のようになっていたので住民はさほど気にしていなかった。 この村は、傍から見れば平和そのものであった。水面下である計画が進んでいることは誰も知らずに……。
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