高嶺の花

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「おはようございます」 「おはよう」 あたしが『受付スマイル』でそう言えば、男性社員は少し頬を赤らめ挨拶を返す。 「おはようございます」 「おはよ、奈々美ちゃん、今夜あたり一緒に飲みに」 「残念ながら今夜も無理です」 こんな会話すらニッコリ笑って受け流す技は入社して半年でマスターした。 うちの会社は商社としてはかなり大きな部類に入る。 社員だって関連会社を含めれば悠に3000人は超す。 このビルも12階建ての自社ビルで、あたしはそこの受付嬢。 張り付いた笑顔を絶やすことなくロボットのように挨拶を繰り返すのがあたしの仕事。 「今日も稲森さんめっちゃ可愛い~。一度でいいからつき合ってみたいよな」 「バーカ、お前なんか相手にするかよ」 「っつーか、男がいるって噂だろ?」 「あーゆーのを『高嶺の花』っていうんだよな」 こんな会話はいつものこと。 『高嶺の花』 それが誉め言葉じゃないのも知ってる。 でもね、本当は……。
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