異質性

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「んじゃ、また後でな」 男は野辺の肩を叩くと、手刀を高く挙げて車へ走っていった。野辺は返答することも忘れ、じっと男の姿を目で追い続けた。 ほんの一瞬ではあるが、野辺は男が手を挙げた際、スーツの内側にホルスターが存在しているのを見逃さなかった。ホルスターにはしっかりと拳銃が収められ、グリップから銃はトカレフ拳銃であることを見抜く。日本での銃犯罪事件において使用率が非常に高いものだ。言ってしまえば中国製のコピーだが、銃という存在は自然と懸念材料の一つになる。 あー、あー、思い出した思い出した。 男の顔に見覚えがあるのも無理は無いだろう。ようやく野辺は記憶の隅から男の情報を引き出すことに成功した。 情報が正しければ男の名は谷岡章吾(たにおかしょうご)。暴力団構成員で麻薬の運び屋として逮捕歴もある。そんな男がこうして生き残っている。悪人が無駄に長生きするという迷信を若干ながら野辺は信じた。 「何べらべらと喋ってたんだよ。主婦かてめぇ」 雨で濡れた体を運転席に滑り込ませるなり、当然のごとく助手席から飛んできた台詞。野辺は再び子を宥めるような姿勢をとった。
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