第一章 ― 覚醒の夜 ―

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.  紫苑、十六歳。緩く波打つ金色の髪は背中の真ん中まであり、その瞳はまるで黄水晶のように澄んでいる。この紫水の村長の一人息子だ。  いずれはこの村を納める少年。だが今はまだ、その華奢な体付きには男臭さの欠片も無い。  それでも村人たちの期待を一身に受けていたのは、下級人間にしては強い魔力と穏やかな性格のためだった。  同い年の泉水は紫苑の許婚。少々勝ち気で今日のように紫苑を困らせる事はままあったが、年齢のわりにはしっかりしており、大人しい性格の紫苑とつり合うのは泉水しかいないと村人たちは二人の結婚を待ち望んでいた。 「あ、紫苑。私の家に寄って。渡したい物があるって父さんが」 「解った。行こう」  顔を見合わせて微笑むと、二人は手を繋いで歩き出した。  初夏の夕暮れ。清く豊かな水に恵まれた美しい村―― 紫水。  ここでの幸せな暮らしがわずか数時間後に壊れてしまうなどと、この時の紫苑は思ってもいなかった。 ++++++++++++++++++++++  炎の尊  ~HOMURA no MIKOTO~  第一章 ― 覚醒の夜 ― ++++++++++++++++++++++image=420640438.jpg
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