ひまわりのように

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 ひまわり畑は眩いほどに夏だった。 ふっくらと白い入道雲が浮かぶ、抜けるような青空の下。 黄色い花びらをつけたひまわり達が快活に夏を謳(ウタ)っている。  その光景を前に居ても立ってもいられなくなったあたしと陽は、自分達の歳も忘れてひまわり畑へ飛び込んだ。 おにごっこの始まりだ。 いつものようにあたしは逃げて、彼はあたしを追って来る。 背の高いひまわり達をかき分けて、あっちへこっちへ走り回った。 今年の夏もちっとも涼しくなくて、太陽光線は最高出力で素肌に突き刺さり、熱風は何リットルでも汗をかかせようとする。 それでも、背後から聞こえて来る陽の笑い声は爽やかで、あたしはすべての不快感を笑い飛ばすことができた。  走り続けてしばらくして、陽の足音が聞こえないことに気づき、足を止めた。 全身の熱が一気に顔へ上がって来て、体中からドッと汗が噴き出す。 熱く粘つく空気を振り払うように、あたしは辺りを見渡した。 遠くから聞こえてくる蝉時雨の中、あたしより背の高いひまわり達が周りを取り囲んでいる。 「陽! どこー!?」 空に向かって叫んだ声は、そのまま青く澄んだ空気に溶けて消えてしまった。 彼の名前を呼びながら、来た道を返って行くけれど、返事はない。 ひまわりに縁取られた狭い空を見上げていると、まるであたし1人が世界から隔離されたみたいだと思った。 心細さを覚えたそのとき、細い片腕が背後からあたしを抱きしめる。 彼はあたしの耳元で歌うように囁いた。 「ここにいるよ。」 「暑いよ。  どこ行ってたの?」 あたしは笑ってそう言いながらも、陽の体温を背中に感じながら、彼の腕に自分の手を重ねる。 思いが通じたのか、陽はあたしを抱きしめる腕に軽く力を込め、もう片方の腕に抱えていたものを、あたしの目の前に持って来た。 「これ買いに行ってたんだ。」 それは、周りに咲いているものよりも、花冠が2周りほど小さいひまわりの花束だった。 輝くように鮮やかな花弁に、思わず感嘆の溜め息を漏れる。 すると陽は、少年が何か重大な秘密を打ち明けるときのそうするように、あたしへ質問を投げかけた。 「ねぇ、ひまわりの花言葉って知ってる?」 「『あこがれ』だっけ?」 あたしが答えると、くすくす笑う声と共に、陽が腕を解く。 「それもあるけど、今回はハズレ。」
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