第一章

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「うん? 杏、どうかしたのか?」 「い、いや! なんでもないって!」  ハルにノートのことを話しても良かったんだけど、咄嗟に後ろに隠して誤魔化してしまった。  ハルも別にそこまで気にしているわけでもないみたいで、直ぐに作業に移ってしまったため、言おうにも話す機会を完全に逃してしまう。  うーん……まぁ、いっか。  俺は深く考えることを止めてノートを聖書と同じく鞄に押し込むと、作業を再開した。  それからはお互い、特に会話することもなく黙々と作業を続けて部室を綺麗にする。  お互い、話すネタがないというよりかは疲労が溜まってきて口が重くなってきている感じ。  ……いや、実際は俺だけが疲れているだけで、ハルは澄ました顔で本を運び出している。  同じ男なのに、どうしてまぁここまで差が出るのかね。 「どうした? 俺の顔に何か付いているか?」 「はぃっ!? あ、いや、その……」 「さっきから様子が変だぞ。 片付けている最中も杏の視線を妙に感じて作業に集中できないんだが……」  ハルに気づかれるくらいずっと見てたのか、俺。  というかどれだけハルを見てんだよ……これじゃただの変態じゃないか。
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