一章

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 ふっ……、目の前が暗くなる。  どうしたのだろうと左手で目を擦ろうとしたが、何も感じない。  ますます疑問に思った彼女は、いつもの考え事をする時の癖で爪を噛もうとした。……噛めない。 「あ、れ……?」  水が泡立ったような奇妙な音が、発声の邪魔をした。そこでようやく、彼女は目を開くことができた。  まず映ったのは、舗装された綺麗な道。  次に映ったのは――塀にもたれ掛かる、首のない胴体だった。 「やあ、やあ。これはまた綺麗な断面だ。惜しむらくは脂肪の層が、少し潰れてしまったことだろうか。余分な血も流れて、美しさが半減している。やはり断面は磁器のように滑らかに、流れる雫は憂いの涙のように淑やかでなければならない。けれど、この安堵感に包まれた表情はとても良い! ああっ、まるで救われたような顔だ。なんていじらしいのだろう!」  閑静な住宅街の夜道に、そんな言葉が響いた。  彼女にはもう、何も聞こえていなかった。 第一篇・『首なし乙女』
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