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いい加減もう手を放してくれと言いかけた時、扉に貼りついていたへろんへろんが、風船を破裂させた音を伴い、跡形もなく消えた。次の瞬間、教室の左右にある出入口の扉が、とてつもない速さで開閉され始めた。それは扉の梁に叩きつける様に動かされ、扉の上部についたガラス窓が激しく震動し、ひびを生じさせた。
誰かのいたずらかと思ったが、開閉する扉の隙間に目を凝らしても、その先に見える廊下には誰の姿も見受けられない。私は恐怖にかられて後退りした。
「へろんへろんて無害だったんじゃ」
「へろんへろんじゃないよ。へろんへろんは逃げたもん」
驚愕し扉に食い入る私を尻目に、河原さんは私の鞄から勝手にノートを取り出し、白紙のページを少し千切ると、それに軽く口づけて手の中で丸め、扉に投げつけた。紙玉は扉に跳ね返り床を転がったが、それと同時に扉の開閉速度は減速し、やがて元の位置に止まった。
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