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「ねぇ祐ちゃん…また、あの曲弾いてくれる?」
「は?」
「ほら、あそこにピアノが…」
「嫌だ。」
会場の隅にピアノを見つけ、目尻に浮かんだ涙を拭いながら聞くと、祐ちゃんに即答された。
ああやっぱり…。
照れ屋だもんね祐ちゃん…。
分かっていてもちょっと寂しく思う。
すると、祐ちゃんが私のストールを引っ張り上げ、私の顏を隠すように広げた。
そして唇を寄せて来る。
「ゆ、祐ちゃんっみんないるよっ!」
「知るか。」
「だ…ダメだってば!!」
首を振る私にため息をつき、祐ちゃんがその体勢のまま少し考える仕草を見せた。
「……」
その唇が、瞳が、意地悪く笑みを浮かべる。
「エリ。」
私を呼ぶ声が甘い。
「…あの曲。エリとこの子のためだけになら……いつでも弾いてやるよ。俺の愛の深さを思い知れ。」
囁くように言われれば、もう完敗だった。
祐ちゃんがまた唇を寄せて来ても、もう拒む事なんか出来ない。
唇を受け入れながら。
私の頭の中には…先ほどの祐ちゃんの歌が流れていた。
永遠に終わる事のない愛の旋律。
それを、これからは三人で紡いでいく―――――
END
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