第二十六章

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……柳に雪折れなし。 結羽に打って付けのことわざだった。 気が弱くて泣き虫なくせに、内面に意外な強さを持っている。 大きな木を圧し折る大雪も、さらりとかわす柳のように。 徳川幕府が滅んだ後、新撰組は激しい逆風に晒された。 そんな中で戦鬼となった土方を、結羽はどのように見たのだろう。 ため息と同時に島田箱を膝に置く。 感情は抜きにして、適当に本から拾ってきた文字を口にした。 「新撰組は箱館市中を取り締まってた。だけど実は12月に一度、その任務を解かれてる」 「その直後に選挙があったね。新撰組が再び取り締まりに就いたのは、市中取締を兼任した土方の推薦だと俺は思ってる」 私に説明しろって言ったよね? これから話そうとしたことを、なぜか先に言われてしまった。 土方は決して利己的ではない。 部下想いで人情深く、そして何より結羽を心の底から愛していた。 「別行動で離れてはいたけど、新撰組とは強い繋がりを感じるの。生きなくちゃいけない……だって土方さんは……」 「守るべきものがあった。部下のことだけじゃない……土方が最愛の女を見捨てるなんて俺にも考えられないよ」 「…………」 悠祐は私の心の声を代弁すると、初めて島田箱に目を向けた。 不思議に思いながら、持て余した島田箱を悠祐に突きつける。 「……何?」 「さっきの問題の答え。結羽の日記に書いてると思う……確かめてみて?」 悠祐の顔を見上げ、思わず眉を顰めた。 本当の目的は、鉄之助の脱出した日のことではなく…… 避けていた結羽の日記を、私自身に確認させる為なのだと気付いた。 島田箱を持ってきたことを後悔した時、予想した言葉が返ってきた。 「自分で答え合わせしろよ」 「……無理」 「何で? お前の答えだろ」 「怖いから。結羽は私を恨んでる」 結羽の日記の内容から、土方が死んだことは明らかだった。 それすら自分のせいのような気がし、申し訳なくて胸が痛んだ。 「逃げずに確かめろよ」 「すごく不安そうな顔で結羽が言ったんだよ。土方さんのことがスキだって……どうすればいいのって……」 「…………」 「それなのに私、何にも言ってあげられなかった……だってそうでしょ!? 死ぬんだよ!」
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