8057人が本棚に入れています
本棚に追加
/2031ページ
……柳に雪折れなし。
結羽に打って付けのことわざだった。
気が弱くて泣き虫なくせに、内面に意外な強さを持っている。
大きな木を圧し折る大雪も、さらりとかわす柳のように。
徳川幕府が滅んだ後、新撰組は激しい逆風に晒された。
そんな中で戦鬼となった土方を、結羽はどのように見たのだろう。
ため息と同時に島田箱を膝に置く。
感情は抜きにして、適当に本から拾ってきた文字を口にした。
「新撰組は箱館市中を取り締まってた。だけど実は12月に一度、その任務を解かれてる」
「その直後に選挙があったね。新撰組が再び取り締まりに就いたのは、市中取締を兼任した土方の推薦だと俺は思ってる」
私に説明しろって言ったよね?
これから話そうとしたことを、なぜか先に言われてしまった。
土方は決して利己的ではない。
部下想いで人情深く、そして何より結羽を心の底から愛していた。
「別行動で離れてはいたけど、新撰組とは強い繋がりを感じるの。生きなくちゃいけない……だって土方さんは……」
「守るべきものがあった。部下のことだけじゃない……土方が最愛の女を見捨てるなんて俺にも考えられないよ」
「…………」
悠祐は私の心の声を代弁すると、初めて島田箱に目を向けた。
不思議に思いながら、持て余した島田箱を悠祐に突きつける。
「……何?」
「さっきの問題の答え。結羽の日記に書いてると思う……確かめてみて?」
悠祐の顔を見上げ、思わず眉を顰めた。
本当の目的は、鉄之助の脱出した日のことではなく……
避けていた結羽の日記を、私自身に確認させる為なのだと気付いた。
島田箱を持ってきたことを後悔した時、予想した言葉が返ってきた。
「自分で答え合わせしろよ」
「……無理」
「何で? お前の答えだろ」
「怖いから。結羽は私を恨んでる」
結羽の日記の内容から、土方が死んだことは明らかだった。
それすら自分のせいのような気がし、申し訳なくて胸が痛んだ。
「逃げずに確かめろよ」
「すごく不安そうな顔で結羽が言ったんだよ。土方さんのことがスキだって……どうすればいいのって……」
「…………」
「それなのに私、何にも言ってあげられなかった……だってそうでしょ!? 死ぬんだよ!」
最初のコメントを投稿しよう!