第二十六章

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突如、沈黙が訪れる。 無視をしたのではなく、頭の中が忙しくて聞こえなかったのだ。 ……私は何をしているんだろう。 それはいつも突発的で、安眠を得るための緊急課題だった。 初めて向けられた冷たい視線は、今でも脳裏に焼きついている。 別にショックだったわけじゃない。 想像していた通りの男だったと、結羽を羨ましく思ったほどだった。 それほどに私は、沖田という男に心酔していたのだろう。 想い描いた男に惚れ込み、親友を巻き込んで時を逸脱した。 そして別の男の子を身ごもり、フラフラと現代へ戻ってきた私。 だからさ…… 私は一体何をしているの? 朝まであと何時間あるんだろう。 人差し指に巻きつけた髪を、無意識に強く下へ引っ張った。 「負けず嫌いなのは分かるけど、ここまで強情だとは思わなかったよ。そんな風にいくら焦っても、時間の経つ速度は変わらないんだよ」 「誰の話をしてるの?」 苛立った口調で窓の向こうに呟いた。 悠祐はそれを聞き流し、窓に反射した顔に淡々と問いかける。 「最後に月と話したのはいつ? もう随分前で思い出せないんじゃないの? 話しかけるどころか今は逃げることに必死だからね」 「私の何が分かるの……たった数ヶ月で何もかも分かったような振りしないで!」 「その数ヶ月の間に、どれだけお前のこと見てきたと思ってんだよ!!」 車内の時計に目を向けた私に、悠祐はとうとう怒鳴り声を上げた。 さっと腕を振り払われ、巻きつけた髪が指の間からすり抜ける。 なぜか悔しくて涙が込み上げた。 突然の怒りに腹を立てると、泣く代わりに悠祐を睨みつけた。 「こっち見ろよ……そいつのこと本当に大切だと思ってるなら、早く読ん……」 「放してよ、もう!」 「受け入れてやれって言ってんだよ! それが出来ないからお前はいつまでも焦ってんだろ!」 私は紛れもなく焦っていた。 辺りはひっそりと静まり返り、街はとっくに寝息をたてている。 押し寄せた罪悪感と後悔の念は、どの時間帯よりも過酷だった。 どんなに雲が月を覆い隠そうが、私はどこにも逃げられなかった。 不意にフロントガラスが雨粒を弾く。 悠祐は膝に目を落とすと、いきなり島田箱を払い落とした。 「な……何すんのよ、バカ!!」 「バカはお前なんだよ! 考えろよ……150年も前から恨んでる奴に、誰がこんな日記残すんだよ」
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