第31節 昇格プレーオフ

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 第1戦の終了間際、ゴール前30メートルの地点で、フィル・パーカーがファールをして、フリーキックを与えてしまった。キッカーはもちろんエヴァンス・ウィルソン。エヴァンスは不敵な笑みを見せて、直接ゴールを狙うフリーキックをうってきた。  アディショナル・タイム。このまま直接ゴールを決めれば劇的すぎる展開。  弧を描きながらゴールマウスを目指したボールは、あとボール1つ分外れていた。ゴールポストに激しく当たったボールは、そのまま勢いよく跳ね返り、ハリー・アップソンが大きく蹴りだした。その次の瞬間に主審が長く笛を吹き、試合はスコアレスドローとなった。  天国と地獄。まさにその境目の瞬間だった。 「…………」  そのとき、エヴァンスは目を閉じて、悔しそうに天を見上げていた。  フリーキックの時、エヴァンスは誰にもパスを出そうというそぶりは見せなかった。残り時間を考え、最後にプレストンに自ら引導を渡すことを狙っていた。理想的な助走からの、理想的なシュート。見事なボールの回転に、美しい軌跡。  けれどもボールはゴールポストを叩き、ゴールを割ることができなかった。天を見上げていたエヴァンス・ウィルソンは、ゆっくりと視線を正面に戻した。プレストンゴールを見つめる。その目には複雑な光が宿っていた。かつて自分が中心だったクラブ。ステップアップするために離れていったクラブ。  そのクラブが今目の前に自分の野望でもあるプレミア昇格の阻害要因として立ちはだかっている。不思議な感覚だった。ある種の呪縛のようなもの、因縁のようなものを感じさせられた。エヴァンス・ウィルソンは、自らの力でチームをプレミアに昇格させることで、自分自身の中の憤りのようなものに、ある種の点を打つことができるように感じていた。  いずれにせよ、二つのチームの勝負はカーディフ・シティのホームで行われる第2戦で決着がつくことになる。  エヴァンス・ウィルソンにとっても、プレストンの面々にとっても、忘れ難い重要な試合になることだけは間違いなかった。
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