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程よい揺れに身を委ねながら、ガタンゴトンと鳴る音に耳を傾けていた。ここはどこなのだろうか、クルスは目を丸くし辺りを見渡した。見渡すのだが、先程までいたはずのロビーとは違い長細い空間。
座椅子は横に伸びている物と、4人席がいくつか目に入ったが、ここは所謂ところの電車の中。乗車している人はチラホラ見えるのだが、眠っていたり携帯電話をいじっていたりと、何食わぬ顔で座っているだけ。いったいクルス達に何が起きたと言うのだろうか。
外を流れる風景を見ても、昼下がりの日差しは見る影もなく、闇。いつの間にか夜が訪れている風景。微かに見える民家の光だけが通り過ぎていった。
「どう言う事だよ?」
理解に苦しんでいるのはクルスだけではないらしい。コウもまた首を傾げて言った。あの警察署で起きた出来事は、残念な事に夢ではないと告げられたようにも感じる。それでもこの状況は頷けるものではなかった。
「どう見てもさ、電車の中って感じだよね」
率直にクルスは言った。しかし、そんな言葉は誰も求めてはいなかったのだろう。見れば分かるのだ、言われるまでもない。その言葉に対して誰も反応を見せてくれなかった。
寂しそうな表情を浮かべたクルスは小さく溜息を漏らし、もう一度だけ窓の外を眺める事にした。こうしてマジマジと見ると、どこか見覚えがあるように思える。そうなるとここは、どうやらクルスも知っている場所だったのかもしれない。
『まもなく、○△、○△……』
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