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自由になったあたしがくるりと振り返ると、あたしと同様に汗だくになっている陽が、ひまわりの花束を腕に抱えて立っていた。
あたしのもとに走って来てくれたのだろう。
陽の中性的で女の子みたいな顔が真っ赤になっていて、とても可愛いくて愛おしかった。
「今回はって何よ。」
声を上げて笑うと、あたしは汗で額にはりついた前髪を片手で整え、上目づかいに聞いてみた。
「じゃあ、正解は?」
あたしの問いかけに、陽は急に表情を引き締める。
瞳に映る力強い光の精悍さに、思わず胸が大きく鼓動を打った。
「『私の目は貴方だけを見つめる』だ。」
陽はそう言って、あたしにひまわりの花束を手渡すと、ズボンのポケットから小さな箱を取り出した。
あぁ、今日はなんて暑いんだろう。
真夏の太陽の下、あたしの胸の鼓動は高鳴り、こめかみからは汗が流れ、全身から幸せが溢れ出す。
「咲希。俺はこれから、ずっと咲希だけを見ていきたいんだ。
彼はそう言いながら小箱のフタを開け、
「結婚しよう!」
あたしへ給料3ヶ月分の指輪を見せつけた。
いつも口より体が先に動いてしまうあたしは、気づけば陽の背に腕を回していた。
華奢で頼りなげに見える陽の体は、抱きしめるとがっしりとしていて、あたしはこうするときいつも陽が男なのだと実感する。
お互いに汗でしっとりと湿った体を寄せ合ったまま、あたしは暑さと幸せで窒息してしまいそうになりながら満面の笑みで応えた。
「――はい!!」
これから、この夏の日差しのように、輝かしい毎日が続いていくのだと思っていた。
太陽色の花びらを寄せ合うひまわり達のように、いつまでも笑い合えるものだと信じていた。
3日後、陽が歩道橋の階段をひとりで下っている途中に、足を滑らせ、後頭部を強く打ちつけて死んでしまうなんて、夢にも思っていなかった。
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