儀式

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警察は広子の死を事件性は無いとして事故死と断定した。 僕は勿論関係者として警察に出頭はしたものの、刑事達はまるで聞く耳を持たぬといった姿勢で全ては自殺として事務的に処理されていった。 所詮、薬物中毒者の死などその程度の扱いなのだろう。 当たり障りの無い調書に指印を求められ、それが済むと刑事達は野良犬を追い散らすかの様にして僕を取調室から追い出した。 結局僕には何も出来なかった。 彼女を救うどころか、彼女の心の闇に僅かに触れる事さえ出来なかった。 初七日が過ぎ、四十九日が過ぎ、日捲りは片時も休む事無く記憶を風化させていく。 あんなに涙を流していたあの連中も、今はもうすっかり出会い系サイトで男を漁るのにいとまがない。 情けも容赦も躊躇もなく、過ぎて行く時間は全てを飲み込んで行く。 それは舗装路を馴らして行く大きなローラー車のように、 喜びも悲しみも余す事なく全部踏みつぶし均等に平らげて行く。 「こんなもんなんや。人間なんて所詮いつまでも悲しみに浸れるようには出来てない。 なぁ広子・・・僕は、人間なんて、大嫌いや」
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