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†prologue†
戸棚の中に隠れていた少女二人は、僅かな隙間から室内を見る。
「男は全て殺せ! 女は生け捕りだ!」
武装した兵士たちに人々が襲われていた。
少女たちは声が出せない。体も動かない。乱暴な兵士たちに対する恐怖で震えが止まらなかった。
隣の扉が開いて、次はいよいよ見つかると思ったとき、少し遠くで罵声が飛んだ。
「見つけたぞ! 女! 逃げられると思ったか!」
「やめて、来ないで!」
その声に、近くを荒らしていた兵士は女性のもとへ走った。
“お姉さまが……!!”
戸棚の中の暗がりから、その様子を見聞きしていた少女たちはそれぞれに心の中で叫んだ。
口にすることは出来なかった。言葉にして叫んでしまえば、それは即ちもう片方の少女も自分と共に発見され捕まってしまうからだった。
“神様、どうか……どうかお姉さまをお救いください”
無力な少女たちは祈ることしか出来なかった。少女たちが毎日、神に祈っていたその時よりも何よりも強い願いを込めて祈った。
その祈りが聞き届けられたのか、持ち慣れない剣を持った神官が部屋に入ってきた。
“どうか、どうか。お姉さまを!”
捕われそうになる女性を守ろうと決死の覚悟で剣を振り上げ、神官は兵士に立ち向かう。
「坊主の非力が、殺しのプロに敵うとでも思ってんのか? あ?」
やすやすと剣を奪われ、神官が切り捨てられた。
赤が鮮やかに飛び散った。虫の息で言葉を絞り出す。
「巫女さま、巫女さま。どうかお逃げください。早く。ぐ、あああ!!」
「黙れ、雑魚が」
心臓に突き立てた剣をえぐり抜き兵士は叫ぶ。泣きわめく女性の声が耳を裂く。
少女たちは、暗闇の中で耳をふさぎたかった。目を固くつむりたかった。
何も見たくない。聞きたくない。知りたくない。だが、動かぬ体がそれを許さなかった。
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