ざっくばらん!

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   オンナはその瞬間が、オビ暦-12345年67月89日99時99分99秒だったことを知らない。 そのときユビ国【深海地区】を歩いていたオンナは、見知らぬ男に腕を掴まれ、こう声をかけられていたからだ。 「ざっくばらんに言うと、パンダだ。」 オンナは溜め息を吐くように、はぁ、と応え、怪訝な表情で男をジロジロと眺めた。 男は頭の薄い中年で、茶色いシミのついた鼠色のコートに袖を通している。 裾から伸びる貧相で汚ならしい脚を見るに、コートの下は裸のようだ。 ちなみに、男の腕は5本、脚は3本あり、(゜Д 。)という顔をしている。 その表情はつまり、ヒラメの死骸によく似ていた。 【深海地区】は恒星電灯の光が届かない、常夜のオフィス街。 電磁蛍が二束三文の安っぽい光で、ビビッドカラーな高層ビル群を照らしている。 オンナと男は、この時間に最も人通りが多い、グレイト銭湯の前に居た。  賑やかな道を行けば変態には出会わないだろうと考えていたオンナは、【深海地区】に着いて早々自分のアテがハズレたことに、あからさまに落胆する。 が、すぐに気持ちを切り替えて顔を上げた。 朝の来ないこの地区で、しかもこんな真夜中に、年端も行かぬ自分が歩き回っているのが悪いのだ。 変態に出会ってしまったならば、撃退するのみ。 「パンダが、何です?」 挑むようにオンナが睨み付けると、男は明後日の方向を向いた。 男は斜視なようだ。 死んだ魚のように濁った目が、腐臭のする屈折した視線を投げかけて来るのを感じ、オンナの背に悪寒が走る。 男は今まで掴んでいた腕を投げ捨てるようにオンナを突き放すと、すべての腕を上にあげ、 「パンダは白黒してるヤツだよ! ママ知らないの!? ざっくばらんに白黒なんだよ! ざっくばらん! ざっくばらん! ざっくばらん! ざっくばらん! ざっくばらん! ざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっ、くざっくざっくざっくざっくざっくざっく、ばらばらばらばらばばらばらばらばらばら、ばらばらばらばらばらばらばらばららばらば、らばらばらばらばらばらばらギィッ! ギイイイイイイィィィイイィイイィイイィイイィイイィッ! イイイイィイイィイイィイイィイイィッ――!!」 発狂したエレキギターのように叫び、細長く薄っぺらい電信柱になってしまった。 オンナは思った。 (初対面で電信柱になるとは、失礼な奴だ! つか俺ママじゃねーし!)
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