プロローグ:あの日,空が赤く……

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プロローグ:あの日,空が赤く……

好き・愛している…… そんな感情が失われたのはいつからだったのだろうか。 「であるから,この問題の解き方は……」 数学担当の教師が黒板に問題の答えを書いているが,全然頭に入らなかった。 右手に持っていたシャーペンを机の上に転がし,机の上にうつぶせになると,窓の外に見える景色が目に飛び込んできた。 外は昼下がりから夕方へと時間が進むにつれて,太陽が西へ傾いていく。それにつれて,太陽の色がオレンジ色に変化していってる気がした。 授業が終わり,放課後になるとほとんどの生徒は雪崩のように教室から出ていく。部活が終わり,受験勉強しか残っていない3年生だから当然といえば当然なのだが。 「順也,オレたちも帰るか」 「うん」 親友――というべき存在であるかどうかは分からないが,中川真(なかがわ・まこと)と一緒に教室を出ようとしたとき…… 「!」 「どうした,順也?」 「……」 教室を出たすぐそこに,一人の女の子が立っていた。 「君は……」 「あっ,あの……」 同級生では見たことがないので,たぶん後輩の子だろうか。髪を肩付近できれいに切りそろえ,容姿も可愛らしい。しかし,表情の方は固く緊張しているようだ。 「こっ,これを受け取ってください!」 「!」 その女の子は体の後ろで組んでいた手を僕の方に差し出した。その手の中には便箋が入っていた。 「おぉ~!!相変わらず順也はモテるねぇ~!」 「……」 後ろで真が一人で盛り上がっていたが,僕は気にしなかった。周りを見渡すと,帰りの足を止めて僕らの様子をうかがう生徒の視線がこちらに向けられていた。 「あ、あの……」 「……いいじゃねぇか順也。受け取ってやれよ」 「ごめん」 「えっ?」 「順也……」 真面目な表情になった真と戸惑いの表情を浮かべていた女の子に,僕ははっきりと言い切った。 「それをもらうことはできない」 「おい,順也……」 「……そうですか……」 「……それじゃあ,僕は帰るよ」 そう言って,立ち尽くす彼女の脇を通りすぎ,階段を降りて昇降口へと向かった。 冷たいやつ…… 読んであげるくらいしてあげたらいいのに…… 周りの視線がそう言っていたが,振り返らなかった。
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