プロローグ

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「猫は一体、何故死ぬのでしょうね?」 波間から流木が浮上するように、闇の中に一つの人影が浮かび上がる。 スーツとシルクハットを身に纏い、ステッキを手にした紳士のようなその人物は、シルクハットを深く被り直しながら自らの名を名乗った。 「初めまして。私は“本館”の案内役……もとい、狂言回しを務めさせて頂く“白沢四季”と申します。では早速ですが、話を戻しましょう」 言いながら彼は深く一礼し、面を上げると柔らかい笑みをその顔に浮かべる。 「さて、先程の話ですが、誰でも聞いた事はある筈です。“好奇心は猫をも殺す”という、諺を。その諺で猫が死ぬ理由を、あなたは御存知ですか?」 その問いに、答える者は誰も居ない。 いや、場合によっては、それは確かに“居る”のだが……。 やがて一瞬の間を置いた後、彼はステッキの先を持ち手とは逆の手のひらに打ち付け、静かな口調で続ける。 「猫は好奇心旺盛な生き物です。自らの探求心を満たす為なら、危険など省みない。それ故いずれは不運な事故に巻き込まれ、命を落とす事となります。自らの好奇心に、殺される形でね」 そこまで言うと仰々しく両手を広げ、くるりと一回転して見せる紳士。
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