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荼毘に付され、骨壺に入れられた雪花を両手で抱えながら、俺は車が到着するまでの間、少し親族達から離れた。
…………真夏に喪服は、暑い。
俺は額に滲んでくる汗を拭いながら、目の前に立つ大きな木を見上げた。
シャンシャンシャン、と耳障りな程、蝉が鳴き喚いている。
(…………るせーな)
そう思いながらも、俺はその鳴き声がなんだか切なかった。
………蝉って、成虫になってから一週間ぐらいしか生きられないんだっけ?
て、ことは。
その一週間の間に子孫を残さないといけない訳で。
(………そりゃ必死で鳴き喚くわな。……誰だって、子孫は残したい訳だし……)
妙な物思いに耽っていると。
背後から上着をつん、と引っ張られた。
我に返って振り返ると、低い位置に子供の頭があった。
いつの間に側にいたのか、陸が俺の上着の裾を掴んで、じっと俺を見上げていた。
「………おじちゃ、大丈夫?」
首を傾げて少し不安げにそう尋ねる陸に、俺は笑って頷いた。
陸の目線に合わせて膝を折る。
「…………大丈夫だよ」
ポン、と頭に手を乗せてそう言うと。
陸はふにゃ、と半ベソになった。
「………でも……おねーちゃ、死んじゃったんでしょ」
「………………」
5才の子供が『死』というものをどれ程理解できているのかはわからなかったけど。
二度と雪花に会えないことだけは、わかっているみたいだった。
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