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グラスの中の氷が、カランと音を立てた。
結露に濡れるグラスを見ながら、ふと思い出す。
13歳のあの夏の日、泣いている完太を見た。
AV見て気分悪くなってたくせに、中3の終わりにはさっさと初体験すませて、適当な恋愛ばかり繰り返してた。
誰とも深くかかわらない癖に、なにかあると、俺のところにやってきた。
少しずつ大人になって、俺以外の人間とも関わるようになって、はじめて完太が俺のそばから離れて行った時、その背中を見ながら俺は少し寂しいと思った。
目の前にいる完太は、もうあの頃の完太とは違う。
過去と折り合いをつけて、今の自分にとって大切なものを見つけて生きている。
穏やかな表情に切なくなるのは、単なる俺の感傷だ。
完太が笑っていられるのなら、それが俺にとっても大切なことなんだから。
「……これからもよろしくな」
そう言ってやった。
「当たり前だ」
口角を上げて微笑む完太を見て、俺も笑う。
これからも、ずっと。
そうやって笑っていてくれ。
それが俺の、一番の望みだから。
『TRABANT』---END
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