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重苦しい造りの廊下を、精悍な顔立ちの中年の男が足早に歩いていた。
いや、歩いていたというのは語弊があるかもしれない。息を切らしているその姿は、最早走っていると言えよう。
廊下の天井には、一定の間隔で照明が取り付けられている。
左右には多くの扉があるが、男はそれらには目もくれずに、ひたすらに突き進んでいく。
聞こえてくるのは自らの息遣いと、激しい雨音と雷鳴だけだ。
男は雑念を振り払うように走り続け、遂に目当ての扉の前に辿り着いた。
少し乱暴に扉を開けると、勢いよく中へと入った。
部屋の中には天蓋付きのベッドが置かれ、ベッドにはこの男──ゼアトゥールの妻、リズベッドが座っていた。
そのベッドの側には、城中付きの執事ベルモンドが燕尾服を着て控えている。
「リズ! 産まれたのか!」
私の子が! と付け足して、ゼアトゥールは叫んだ。
「えぇ。男の子ですよ、あなた」
「おぉ、そうか! よく頑張ったな、リズ」
ゼアトゥールは、リズベッドの頭を労るように優しく撫でると、産まれたばかりの男の子を見つめた。
泣き疲れたのか、今はリズベッドの腕の中で静かな寝息を立てている。
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