暴君は一日にして成らず

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   父上に連れていかれた陸上競技場は目眩がするほど晴れていた。  あの日、初めて世の中にかかわった。  それまでの俺は、世の外から刃を突きつけるだけの存在でしかなかった。  国籍もなければ、戸籍もない。地図にない小さな孤島で、後ろ暗い所業に生かされる。  そんなふうに生きていれば、ここに俺がいたとしても、世の中には存在していないと同じだ。  世の中で、俺は、中学1年生と分類わけされた。  陸上競技場には、俺と同じくらいの年頃の男女がたくさんいた。その男女らに混じって、とある中学校の選手として大会に出場する手筈になっていた。  大会や選手といっても、訳も分からず父上に言われるがまま、ただ走ったというだけだ。  それこそ、心持ちは、殺しにいくのとなんらかわらない。  そこにいた誰よりも速く走れたが、ただそれだけのことだった。結果を現実として認識しただけで、特別な感情はなにひとつわかなかった。  そして、その現実は、当然のことでもあった。  俺たち“鬼”は、物心ついたころから、死にもの狂いで来る日も来る日も走っているのだから。  走り続けるしかないのだから。  殺すために。殺されないために。  ――ただ死なないために。  
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