「私の絵本」

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賑やかな街中を通り過ぎ、タクシーは高速に乗った。1時間ちょっとかけて田舎へ。高速をおりた車は、果樹園の間を通り抜けて、ゆったりとした坂道を登っていく。林なのか果樹園なのか区別がつかなくなった頃、今まで道の両脇を覆っていた緑も消え、その先には小高い丘があった。 誰かの別荘かと思うくらい綺麗だけど、どこか古めかしい、白を基調とした建物。これから私が生活する場所・・・。 タクシーが近づいて初めて見えた文字。大きめに作られた玄関の上の方に「有賀診療所」とあった。タクシーが近づいてくるのが見えたのか、白衣を着た男女が出迎えてくれた。 玄関前で静かにタクシーが止まり、自動でドアが開く。車から降りた私を見て、白衣の男は嬉しそうな顔で笑った。 「いらっしゃい。香奈ちゃんだね。長旅お疲れ様。」 「あの、お世話になります。」 「うん、こちらこそ。僕は有賀弘道、こっちは柏木静佳だよ。」 「よろしくね。」 有賀と名乗った男は口を耳に寄せると、小さく「名前のわりにうるさいけどね」と囁いた。イタズラっぽく笑っているが、脇腹をポンッと叩かれ「先生?」と睨まれれば困った様に頭を掻く。 「・・・ご夫婦ですか?」 「ち、ちがっ」 「違うよ。こっちは幼馴染み。僕がここを任されてからは手伝いに来てくれるんだ。だから名字が違うでしょ?」 「お手伝いなのに白衣なんですか?」 「さすがに手伝いでも私服でやるわけにいかないし、ナース服って動きにくいのよ。白衣なら楽でしょ?」 「そうですか。」 「来たばっかりで悪いけど、一緒に買い物に行かないかな?香奈ちゃんが生活するのに必要な物もあるでしょ。」 「欲しい物はありますけど・・・大丈夫なんですか?」 「一応、僕も医者だからね。僕が同行じゃ不安かな?」 「・・・じゃあ、一緒に行きます。」 「あ、荷物はトランクだね。大丈夫、このお姉さんは力持ちだから荷物は全部運んでおいてくれるよ。」 「はぁ。」 「そうよ~私は力持ちなんだから。先生くらいなら首根っこ掴んで持ち上げられるわよ?」 「お手柔らかにね・・・。」 とりあえず、前の病院で使っていた私物を下ろし、私は先生の運転でショッピングセンターのある場所まで下ってきた。
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