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今までの手が引っ張られる感覚が急に無くなり幼女を見れば、跳ねるのを放棄してある方向を見やって何やら考えていた。
「どうしたのです?」
相模が親のように問うてやれば、指を差して幼女は言った。
「姐さまが走って行かはれたんよ…。」
幼女いわく“姐さま”が、走る事は有り得ないと言いたそうな顔をしている。
相模も驚いたように目を見開いたが、直ぐに戻って諭した。
「あの方も走る事はあると思います。
ほら、夜篠も先程跳ねたでしょう。
それに……人違いかもしれませんし。」
幼女の名前は夜篠というらしい。
相模と夜篠と言ったら、少女と一緒に居た者達だ。
「ウチは、目だけはいいんよ!」
今度は頬を目一杯に膨らませて怒り出す。
相模は頭である人物の顔を浮かべていた。
(あの方も夜篠みたいに気持ちを表情に出されればよいのに。)
そう考えながら緩みっぱなしの頬を隠さない相模は、何人の町娘を虜にしただろうか。
「相模、そこ左曲がらな!」
「はい。」
他愛ないもない会話と微笑ましい喧嘩をしながら、二人は壬生浪士組の屯所へ歩きを進める。
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