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何時の間にか手だけではなく全身に纏わりついた赤黒を視界から消す為に私は目を瞑る。
このまま苦しむ心ごと自我を消せたならどれだけ楽だろう、と考えながら思考を遮断しようとした時――
黒衣の青年
「眠るのかい、ソフィア?」
ソフィア
「!…………リーダー……」
すぐ横から聞こえた声。
その声に落ち掛けていた意識が引き戻され、下げていた顔を上げれば側に感じる気配。
その動きに彼は微笑とも苦笑ともとれる表情を浮かべる。
黒衣の青年
「最近はよく君に仕事を回していたから疲れるのも無理はない。だから君が寝ていても誰も文句は言わないよ」
ソフィア
「いえ……大丈夫です。皆さんが働いてるのに私だけ休んでる訳にはいきません」
黒衣の青年
「その心意気は有り難いけど君の仕事はこの後だ。その時に不調では困るし……なにより時には休む事も仕事さ」
ソフィア
「あ……」
私の申し出をやんわりと却下した彼は私の頭に手を載せ、繊細な手付きで髪を撫でていく。
その手の温もりにゆっくりと芯から暖められ溶けていく、不安の寒気に囚われていた心。
気付けば全身を塗り潰した錯覚の赤は消え、私の体は人としての色を取り戻していた。
あれだけ彼を疑っていたのに、いざ本人を目の前にするとその思考を否定してしまう理由。
それは、私が彼に抱いた想い。
――好意と言う言葉をとうに通り越した、愛情が原因だった。
命を助けて貰った感謝から生まれた感情、吊り橋効果。
その想いが出でた要因には様々な理由付けが出来たが、想いそのものに理由付けなどない。
私は彼の為なら命を投げ出す覚悟もあり、彼を愛していた。
だから幾ら疑っても頭を撫でる手の動きで猜疑心は消え、心は彼への想いに埋め尽くされる。
彼を見ているだけで自然と顔は紅潮し、彼に触れているだけで体が軽い火照りを覚える。
その時こそが自分が人である事を実感出来、不安に縛られた心が解放される時。
リアル
己と言う生を感じられる時だ。
ソフィア
(なら……この人を疑う事に意味なんて無い。私はあの日協力するって約束したんだから)
彼を疑う事は己の生を否定する事と同義であり、それを行う事で得られるものなど無い。
全てを投げ出す覚悟があるなら、例え彼に利用されているだけの存在でも構わない筈だ。
私の願いはどんな形であっても彼の側にいる事なのだから。
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