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「ぁ、ぇぇと...」
返事に困るアタシ。
直樹の事はそんな風に見た事なんてなかったし付き合うなんてぜんぜん想像できなかった。
冷静に考えてたら、たぶん断ってたんだと思う。
でも、その時は違ってた。
和也と切れたばっかのアタシは、相当凹んでいた。
淋しくて、辛くて、誰でもいいから一緒に居てくれる人が欲しかった。
なんでだろう。
アタシには麻衣も彩も愛美も居る。
なのに、なんでこういう時は、女友達じゃダメなんだろう...。
「それって、別に嫌じゃないって事?」
「い、嫌じゃないっていうか...」
直樹との関係は、なんか歯切れの悪い始まりだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2007年10月
「その日から、交際が始まったと?」
「はぁ...たぶん」
「そうか。じゃあその、当日の事だけれども」
「は、はぁ...」
いよいよきたか。って感じだった。
本題の本題に入るまでがけっこう長かったな...。
「彼に会ったのは何時頃かな?」
「え、と、夜です」
「どこで会った?」
「新宿駅...」
「それですぐホテルへ?」
「ち、違います。ごはんを食べました」
「店は?」
「なんか適当に。カフェだったと思いますけど」
「店を出たのは何時頃かな?」
「九時、は過ぎてたと思いますけど」
「店を出た後は?」
「適当に、散歩みたいな感じで...」
「そこからホテルへ?」
「まぁ、そうだと思いますけど」
「ホテルの名前は?」
「知らないです」
「外観だけでも憶えてないかな?」
「...分かりません」
正直言って、直樹とホテルに行った日の事が『事件』とか言われるようになってから、あの日の事を思い出そうとすると何とも言えない寒気に襲われる。『思い出したくない記憶』としてインプットされてるんだろう。
だから、取調べでもアタシの答えは曖昧になる。
きっぱり言えたのは、直樹からしつこくせがまれてホテルに行った事と、結局『最後』までしてない事だ...。
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