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室内の奥、冷蔵庫の向こう側にある隙間にお盆を置くと、私はもう一度ふうと息を吐きだした。
そうしてくるりと身体を反転させようとして止まった。
私の身体に黒い影が出来ている。
「オイ」
その偉そうな呼びかけ、どうにかならないの!? っていつもなら言ってるのに、今日は声が出ない。
恥ずかしいからだ、自分だけが舞い上がっていたことが。
「な、なんでしょう?」
振り返りもせず返事をすると、フッと笑ったような息が頭頂に落ちてきた。
そんな時の彼は、グレイの瞳を柔らかく細めて私を見ている。それが想像できるから、余計にもどかしい。
恥ずかしいから、今日だけはなるべく距離を置いていたいのに、どうしてこんなに近づくの。って、だんだん腹が立ってくる。
そんな私を余所に、奴は勝手に私の右手を掴むと徐にそれを持ち上げた。
チャリ――
音がしたと同時に、ひんやりと滑り落ちてくる何か。
しかも、そのまま彼は手首を離してくれない。掴まれた手が熱くてたまらないのに。
私はどうしていいのか分からずに、恥ずかしさで耳まで赤くなっていく。
「理香――」
不用意に右耳に話しかけるの、やめてほしい。
そうやって囁かれるだけで私はまだいっぱいいっぱいなんだって分かってよ。
大体、さっきまで超不機嫌そうな声してなかった!?
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