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「家に帰りたい……」
夕べ泣きすぎ、瞼を腫らした清香の顔が再び泣き顔になった。
「桜が美しいぞ」
清香を宥めようと、吉法師は庭の桜の木を指さした。
「ほんとね。とてもきれい」
「桜は好きか?」
「ええ」
「そうか……」
「うちの桜は、もう散りかけていたのだけれど、その落ちた花弁の中にりん太郎が埋もれていて、花弁が、りん太郎の濡れた鼻の頭についていて……」
「ん……?」
吉法師が怪訝な顔つきをしたが、清香は構わず話しを続けた。
「赤い毛せんの上で茶を点てる母の美しいこと……」
清香の無表情な横顔に涙が伝った。
「お前の母御は茶の湯を嗜めるのか?」
「茶の湯?……そうね、幼い頃からお茶を習っているらしいわ。私も時折、母の真似をしていたけれど、お茶会などには行かないの。面倒なんだもの」
「茶会なあ……」
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