隙を作らない

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すると市川さんが持っていた書類を机の上に置き、そしてそこで両手の指を組んで、前に立つ俺を見た。 「……京介、九年間ここを出て、少しは落ち着ちつきましたか?」 「……は?」 突拍子過ぎて、何を問われたのか分からず、眉を寄せた。 「一体、何の事でしょうか?」 と、真意を聞き返す。 すると市川さんは浅く息をつき、こう続けた。 「……まゆらお嬢様に対する、貴方の個人的な感情です」 「──!」 息が止まって、市川さんを真っ直ぐ見ていた目が渇く。 後は表に出さなかったが、……一瞬、動揺してしまった。 すると市川さんが今度は深く、息を吐き出した。 「……自分の立場を、分かっていますよね?」 「……それは、勿論。重々承知しています」 平静を装うが、言葉の端々がぎこちない。 悟られてはいけない事だと自分で再確認したばかりなのに、いきなりつつかれ……これとは。
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