隙を作らない

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ノックを三回してから、返事を待つ。 「……どうぞ」 と単調な市川さんの声が執務室の扉越しに聞こえた。 「瀬羽須です。失礼します」 そう返して、俺は扉を開けた。 時刻は、午前十時を回った所。 お嬢様が部屋で休んでいらっしゃる間に、ここへ来た。 室内は、本棚に詰め立てられた沢山の書物のせいでか、古い紙の匂いが微かにした。 執務室は今現在、海外にいる社長……つまりはこの屋敷の主(お嬢様の父親)の代わりにその仕事を行う、市川さんの代理社長室にもなっている。 若い頃から富士城家に仕えている市川さんは、旦那様に絶大な信頼を寄せられ、 本来の執事の仕事である家政管理、財産管理以外の会社の運営も、大分前から任されていた。 お嬢様や客人に対して柔らかに接する市川さんからは、この多忙さはきっと伺い知る事はないだろう。 「……市川さん、大事な話と言うのは何ですか?」 入って正面の、部屋の一番奥。 アンティークの彫刻が施された立派な机で、沢山の書類と向き合っている彼に尋ねた。
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