モラトリアム

プロローグ

「将来の夢は何ですか？」

子供の頃に、よく聞かれた質問。

プロ野球選手、サッカー選手、警察官、医者、弁護士、レスキュー隊員、大工、教師、美容師、看護婦、花屋など。

比較的実現が容易な職業から、誰もが実現出来るわけではない難しい職業まで、様々な業種が存在する。

子供の頃に思い描いた夢を、本当に叶えることの出来た人は、一体どのくらいいるのだろうか？

理想が高ければ高いほど、その実現は難しい。

中学、高校、大学と、時を重ねていくうちに、人は自分の能力の限界を知り、適性を知り、世の中の厳しさを知っていくうちに、希望とする職業のレベルを次第に落としていく。

あたしの子供の頃の夢は、アイドルになることだった。

アイドルという職業は、誰もが就くことの出来る職業ではない。

そういった意味では、あたしは、運良く子供の頃の夢を叶えることが出来た。

確かに、夢を叶えることは出来た……。

でも……、現実は、そう甘くはなかった。