4642人が本棚に入れています
本棚に追加
/523ページ
「えっと、クラリネットパートの木ノ内君。それで、こちらは私の友達の美月ちゃん」
誰も聞いていないのに、間に立つ先輩は、一人慌ててお互いを紹介し始める。
「木ノ内君が必要な物、選んでたんだ」
「何だ、そうだったの。あたしはてっきり彼氏なのかと。つまんない」
「違うよ」
"美月ちゃん"と呼ばれる人物は友達らしいが、その大きめの声も、服装の趣味も、雰囲気さえも真逆の人物。
「帽子屋さん、どうだった?何か良いの見つかった?」
「駄目駄目。もういっそ、手作りケーキでも焼いてみよっかな。お菓子作りなんて柄じゃないけどさぁ」
「いいじゃん、晋一郎も喜ぶと思うよ」
――晋一郎、藤堂が喜ぶ……あいつ、確か近頃誕生日とか何とか。
「でも、面白みなくない?バレンタインでもないのに」
自分を差し置いて話をする二人の会話に、俺は頭を回転させて一つの考えに至った。
「初めて一緒に迎える誕生日だよ、気合入るって」
あぁ、ほら、やっぱりそうだ。
意気込んだ様子で先輩に話をする彼女に視線を送り、俺は自分には縁のない話だと確信した。
――"恋人"って存在か。藤堂って、こういう人がタイプなんだ、ふーん……。
「じゃあ、向かいの本屋さんでレシピ本見てきてみる?」
「お、いいねー、行こ行こ」
テンション高めに友達が親指を立てると、先輩は見ない笑顔で嬉しそうに頷く。
最初のコメントを投稿しよう!