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「でも……木ノ内君、偉いね」
言われた物を買いに来ただけなのに、それは甘すぎやしないか。
「楽器に対して、やる気持ってくれてるんだなって思った」
「当たり前だと思いますけど」
「……ううん」
先輩はその場にしゃがむと、黄緑色の円形のグリスを差し出す。
受け取りながら、自分も隣に中腰になると、彼女は微かに微笑んだように見えた。
――あれ。
確実にいつもより自然体なやり取りに、本来の彼女の姿を見たような気になる。
その安心感を与える雰囲気に、意外性を感じていると……
「朝陽ー、どこにいるのー!」
クラシックの流れる店内に、一際大きな声が響き渡り、俺達を現実へ引き戻した。
「うわぁっ、すっかり忘れてた!」
慌てて立ち上がる先輩は、辺りをキョロキョロ見渡す。
「美月ちゃんごめんっ、ここ、ここにいる!」
「もーこんな所で何やってるの、探してたんだからね」
先輩の名前を呼んだ人は、しゃがんだままの俺を見下ろすと、いきなりこんな一言。
「朝陽の彼氏?」
「いや、違いますから」
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