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ゆっくりと沖田は優笑の顔を見た。
優笑は、呆然としているようだった。
「っ…!」
ああ、やってしまった。
人の心は、もろくて崩れやすいことを、沖田は知っている。
信頼関係を失うのなんて、すぐだ。
沖田は青くなった顔を伏せて隠し、一歩後ろに引いた。
遠巻きに見ていた、原田が
「おいおい。喧嘩かよ」
と心配そうに言う。
つられて藤堂も、眉を下げて
「ねえ、ほっといてもいいの」
と永倉を見て言った。
一方の永倉は
「馬鹿だなあ。アイツも」
と呟いただけだった。
「優笑…?」
菊次郎が、黙ったままの優笑に、心配そうに声をかければ、優笑はビクッと体を震わせた後、
「あ…。ご、ごめんね…!ボーっとしちゃってた…」
と笑顔を見せた。
しかし、その笑顔はどう見てもつくられたもので、傍から見ると、痛々しくもある。
「優笑、もう行こう」
菊次郎が、また優笑に言う。
「え、で、でも…」
沖田の様子を伺いながら、戸惑う優笑だったが、沖田は優笑を見ることなく
「失礼します」
と早足で立ち去ってしまった。
「あ、おき、沖田さ……」
完全に聞こえなくなった足音に、優笑は言葉を濁す。
────呼び止められなかった…。
沖田さんには、私のこと、そんな風に見えていたのか。
仕方ない事なんだ、と優笑は自分に言い聞かせるように、心の中で呟いた。
────私は、まだ自分を証明できていないのだから。
ああ、でも。
言われた言葉よりも、言われた相手の事で傷ついているなんて。
訳分からないよ、私。
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